第1章 アトピー性皮膚炎が増加し始めた背景

なぜ現代において急激にアトピー性皮膚炎は増加し始めたのでしょうか? この原因については、アトピー性皮膚炎を研究されている医師・専門家などの間においても統一されたものはなく、諸説あるため決定的要因を断言することはできませんが、あとぴナビでは、増加に深く関わる背景として次のような要因が関係していると考えています。

1.化学物質の氾濫

化学物質とアトピー性皮膚炎との因果関係を指摘する医師、研究者は数多くいます。身の回りの化学物質は、戦後急激に増えてきたといわれています。例えば、住居、衣類、食品、サニタリー商品(芳香剤、洗剤等)、水道水(塩素等)を見ただけでも、半世紀前とは比較になりません。

これらが含む化学物質は、人体にとっては有害なものです。多量の化学物質の場合は、中毒症状になりますが、ごく微量であっても継続して、摂取したり触れたりすると、治癒力発動としてのアレルギー症状を引き起こすことがわかっています。また、これは実際に、アトピー性皮膚炎の症状悪化の原因となっています。

2.食事情の変化

高度経済成長以降の食事の西洋化、スナック菓子・ジャンクフードの日常的な摂取もアトピー性皮膚炎の発症、悪化に大きく関係することが指摘され、事実その傾向にあります。モンゴロイド系の日本人の腸と、ヨーロッパ人などのアングロサクソン系の人の腸はその長さが違います。日本人は、恵まれた地理的条件と食習慣から、野菜中心で食物繊維を時間をかけて消化するために腸の長さはヨーロッパ人よりも長いといわれています。これは、たんぱく質や脂質を魚中心(時々肉類)で摂取していたことを考えると、腸が長いことで負担をかけない食習慣を日本人は昔から実践してきたということになります。ヨーロッパ人が肉やチーズをあれほどたくさん食べても平気なのは腸が短いことで、腸への負担が少ないからだという専門家もいます。

また牛乳は、給食で毎日出ていますが、日本人は、乳幼児の頃には普通に体内に存在する乳糖分解酵素のラクトースが、三歳を過ぎる頃より不足してくることが指摘されています。これは大きくなると牛乳を分解できない状態を示しており、給食での摂取、あるいは「背が伸びるから」と、牛乳をむりやり飲ませる諸々の習慣が、実は大きなアレルギー発生の原因に関わっていると言われています(調理したり、発酵させたりすると問題はありません)。

更にもっと大きな問題は、食べ物に含まれる防腐剤や添加物などの化学物質の摂取量が急激に増えてきているということです。これらに、たんぱく質や脂質の取りすぎ、ミネラルの摂取不足などの食生活の変化が加わることで、アトピー性皮膚炎の発症、悪化に対して影響が現れているものと考えられます。

3.清潔すぎる生活環境

人間が持つリンパ球による免疫システムは、大別すると、感染症などの外敵に関わるThⅠ型、アレルギーなどに関わるThⅡ型の2つに分けられます。

このThⅠ型とThⅡ型の免疫は、それぞれ干渉しあっており、ThⅠ型の活動が高まるとThⅡ型の活動が抑制され、ThⅠ型の活動が下がるとThⅡ型の活動が高まります。 つまり感染症などで、ThⅠ型の免疫が高まった状態になると、アレルギー(ThⅡ型)は抑制されるということです。実際、風邪で熱が高くなると、アトピー性皮膚炎の症状が一時的に消えて、熱が下がった頃に、再び悪くなるという経験を持つ人は少なくありません。

これは逆に言うと、感染症にかからない状態が続くことは、ThⅠ型が低下している、つまりアレルギーの働きが活発化しやすい、ということになります。

発展途上国などで、アトピー性皮膚炎が少ないと言われる原因の一つに、衛生環境があまり整っていないため、日和見的な感染症にかかりやすくThⅠ型の免疫が常に活発化し、ThⅡ型の免疫が抑制されていることをあげる研究者もいます。

そして、日本の現状を見ると、上下水道が完備され、殺菌・消毒も頻繁に行われています。それだけなら公衆衛生の観点からはよいことですが、現在は行き過ぎた清潔感がもてはやされ、抗菌グッズなどが氾濫することで、日和見感染にかかりにくい衛生環境が整っているため、ThⅠ型が活性化されず、ThⅡ型の免疫の働きが強まり、アレルギーが現われやすい環境にあることが指摘されています。

4.生活スタイルの変化

次に考えられるのが、生活スタイルの変化です。その中でも昔と比較して、身体に影響を与えていると思われるものが、夜型の生活と運動不足(代謝不足)です。

最近の子供達は、大人と同じように夜11時頃まで起きている傾向が普通に見受けられます。しかし起床時間は、学校などの関係から昔とあまり変わらず、全体の睡眠量が不足気味の傾向が強く見られます。

睡眠とは、生体維持においては重要な役割を担っており、その不足はさまざまな影響を及ぼすことがあります。特に子供の場合は、成長する上で必要なホルモンも睡眠中に産生されますし、アトピー性皮膚炎に関わる副腎皮質ホルモンも睡眠と深く関わりがあります。

実際に、イスラエル・テルアビル大学の研究チームによると、子供の睡眠時間を1時間減らしたグループとそうでないグループとでは、減らしたグループの方が明かに疲労感やメンタル面での悪化が見られたという研究報告が発表されています。

そして、もう一つ影響を与えていると考えられるのが、運動不足(代謝不足)です。 私たちの日常生活においては、特に意識することはないかもしれませんが、昔と比べると、代謝を伴う運動(行動)は、明かに低下しています。

この原因の一つには交通事情の発達が挙げられます。

道路や鉄道の整備が十分に行われれば行われるほど、体を動かす基本である日常の「歩く」ことが少なくなります。生活習慣病の予防策でまずあげられるのが「適度な運動」といわれていますが、日常生活の中で「運動」は不足しているのです。

なぜ、代謝が必要なのか、ということを考えると、これも最初に挙げた化学物質の増加につながってきます。 体内に摂取された化学物質は、本来、代謝・排泄により処理されるはずですが、新陳代謝を一定量で維持することができていない現状では、その処理が上手くできていません。また、エアコンなどの発達による快適な室内環境は、身体の代謝にとっては大敵以外の何物でもありません。

このように、生活スタイルの変化が、快適な環境を作り上げた反面、身体に対しては「悪い影響」を与えていることは確かであり、アトピー性皮膚炎が増加している背景としては無視できないものがあります。

5.アトピー性皮膚炎の増加を止めるには?

これまであげた4つの原因以外でも、研究者の間では、さまざまな説があります。皮膚のセラミド量が減少していること、遺伝的な要因、活性酸素の増加など、さまざまな観点による研究が行われていますが、決定的なものは未だ見つかっていないのが現状です。

しかし、アトピー性皮膚炎の世界的な傾向としては、先進諸国に多く、発展途上国では少ないという報告もあります。

発展途上国では交通環境もあまり整わず(日常生活内で得られる運動量、代謝が高い)、衛生状況もあまり良くなく(ThⅡ型の免疫の活動を抑制している)、また工業化も進んでいないため環境内の化学物質の量も少ない、さらに豊食による害、添加物や防腐剤を使った食品を摂取する機会が少ないなど、文明の発達が十分になされていないことがかえって幸いしていると考えられます。

つまり、アトピー性皮膚炎の増加の背景には、文明の発達が関わっていると考えられるのです。

しかし、私たちが現在の文明の恩恵を放棄することは、非現実的であり現状では不可能なことです。そのため、現状の中で心と体にとって「健康な環境」と「健康な生活」をどのように構築できるか、ということが大切であるといえるでしょう。

 

第1章 アトピー性皮膚炎が増加し始めた背景
第2章 アトピー性皮膚炎の真の原因を探る
第3章 アトピー性皮膚炎に対する温泉の効果を探る
第4章「温泉湯治」で アトピー性皮膚炎を克服する